VOC(揮発性有機化合物)とは?排出抑制について解説
VOC(揮発性有機化合物)は、塗料や接着剤、ガソリンに含まれる揮発性の有機化合物で、大気中で気体として存在します。東京都では2020年度に約6万トンのVOCが排出され、主に工場などの固定発生源からが多いです。
中小企業は高価なVOC処理装置の導入が難しく、主な排出源となっていますが、大気汚染防止法により一定規模以上の施設には排出基準が義務付けられ、違反時には改善命令や使用停止命令が下されます。
目次
VOC(揮発性有機化合物)とは?
VOC(揮発性有機化合物)とは、蒸発しやすく大気中で気体となる有機化合物の総称です。これらの化合物には、塗料や接着剤、インクに含まれる溶剤や、ガソリンから揮発するトルエン、キシレン、金属洗浄に使用されるトリクロロエチレンなどが含まれます。
VOCは塗装や建設工事、自動車の給油などさまざまな場所で排出され、都内では2020年度に約6万トンが排出されました。この排出量の約7割が工場やガソリンスタンドなどの固定発生源から、約1割が自動車などの移動発生源から、そして約2割が一般家庭やオフィスから排出されています。排ガス処理装置などで処理します。
◇国内のVOC排出
国内のVOC(揮発性有機化合物)の主な排出源は、塗料が約4割、燃料の蒸発が約2割、印刷や接着剤が約1割を占めています。特に自動車の車体部品の塗装や印刷の乾燥工程で多く排出されており、その大半が中小企業からの排出によるものです。
中小企業が排出源の中心となっている背景には、大企業が導入している燃焼処理型VOC処理装置が高価であり、中小企業にとって導入が難しいという現実があります。しかし、日本全体のVOC総排出量は年々減少傾向にあります。
大気汚染防止法によるVOC(揮発性有機化合物)の排出抑制
VOC(揮発性有機化合物)の排出抑制が始まった背景には、浮遊粒子状物質や光化学オキシダントによる大気汚染が依然として深刻な状況であることがあります。これらの汚染物質が人々の健康に悪影響を及ぼすことが懸念されており、特に光化学オキシダントによる健康被害が多く報告されています。
これを受け、大気汚染防止法では一定規模以上の施設を対象にVOC排出の規制が設けられ、事業者による自主的な排出抑制の取組と併せて、効果的な排出抑制策が進められるようになりました。
◇排出規制の種類
・基準遵守義務、改善命令・使用停止命令
VOC排出者には、法定の排出基準を厳守する義務があります。この基準は、環境への影響を最小限に抑えるために設定されており、事業者はその遵守が求められます。
これらの基準に違反した場合、都道府県知事や関係機関から厳しい措置が取られる可能性があります。具体的には、排出方法の改善指導や、必要に応じて施設の使用停止命令が下されることがあります。
・設置・変更の届出、計画変更命令
新たにVOC排出施設を設置する場合や、既存の施設の構造を変更する際には、法的な手続きとして事前に届出を行う必要があります。提出された内容が規定された基準に適合しないと判断された場合、都道府県知事や関係機関から計画の変更や施設の廃止を命じられることがあります。
この措置は、VOC排出による大気汚染を未然に防止し、地域の環境と住民の健康を保護するために実施されるものです。事業者は、この手続きを軽視せず、適切な環境保護措置を講じた上で計画を進めることが求められます。
・測定義務、立入検査
VOC排出者には、排出濃度を正確に測定し、その結果を詳細に記録する義務があります。この義務は、排出者が環境基準を継続的に遵守していることを証明し、環境への影響を最小限に抑えるために不可欠です。記録されたデータは、定期的な監査や報告の際に提出する必要があり、事業者が自らの排出管理に対して責任を持つことが求められます。
・緊急時の措置
大気汚染が深刻化した場合、都道府県知事は迅速に対応を行う権限を持っています。このような状況では、まず広く住民や関連機関に対して、現在の大気汚染の状況を周知することが求められます。
加えて、都道府県知事はVOC排出者に対して、排出濃度の減少を強く要請することができます。この要請は、法的義務ではないものの、地域の環境保護を最優先に考えた強い勧告となります。
排出者はこの要請に応じて、排出量を抑えるための緊急対策を講じることが期待されます例えば、製造工程の一時停止や排出削減技術の導入、運用時間の短縮などが考えられます。
その他のVOC(揮発性有機化合物)の排出抑制
画像出典:フォトAC
大気汚染防止法による排出規制以外にも、様々な規制があります。主な規制は以下の通りです。
◇シックハウス症候群の対策
シックハウス症候群対策を目的とした排出規制では、特に建材に含まれるホルムアルデヒドやクロルピリホスといった有害物質の使用が厳しく制限されています。
2003年の建築基準法改正では、ホルムアルデヒドの使用面積が制限され、クロルピリホスの使用は禁止されました。これにより、室内のVOC濃度を抑え、シックハウス症候群やアレルギーといった健康被害を防ぐことを目的としています。
◇水質汚濁防止法
水質汚濁防止法では、VOC(揮発性有機化合物)も一部の規制物質として扱われています。例えば、ホルムアルデヒドやキシレン、酢酸エチル、スチレン、クロロホルムなどがこれに含まれ、物質ごとに排水基準が定められています。ホルムアルデヒドの場合、その排水基準は10 mg/L以下とされています。
水道水の基準ではさらに厳しい0.08 mg/L以下とされており、浄水場はこの基準に従って処理を行う必要があります。
VOC(揮発性有機化合物)の排出抑制~自主的取組の状況
VOCの排出抑制は、大気汚染防止法第17条の3に基づき、法的な排出規制と自主的な取り組みを組み合わせて行われています。このアプローチにより、法定基準を遵守しながら、企業や団体が自主的に排出削減を進めることで、環境への影響を最小限に抑えることが目指されています。
法的な規制が基盤となり、これに自主的な努力が加わることで、効果的なVOC排出抑制が実現されています。
◇VOC排出量推移
事業者による自主的取り組みの結果、VOC排出量は大幅に削減されました。具体的には、平成12年度からの取り組みにより、参加企業のVOC排出量は60%以上削減されました。
さらに、平成22年度以降も削減傾向が続いており、平成22年度と比較しても30%以上の削減が達成されています。このように、長期にわたる自主的な取り組みが効果を上げ、環境負荷の低減に寄与しています。
◇業種別及び物質別の動向
VOC排出抑制において、業種別および物質別でも顕著な成果が見られています。従来から自主的取り組みに参加しているすべての業種では、平成12年度から40%以上の排出削減が達成され、さらに平成22年度以降も着実に削減が続いています。
また、VOCの各物質別でも、削減が進展しており、幅広い業界と化学物質において排出抑制が効果を上げています。これにより、環境保護に向けた取り組みが着実に前進していることが確認できます。
VOC(揮発性有機化合物)は、塗料や接着剤、ガソリンなどに含まれる蒸発しやすい有機化合物で、大気中で気体となります。東京都内では2020年度に約6万トンが排出され、その約7割が工場などの固定発生源から、1割が自動車などの移動発生源から、2割が一般家庭やオフィスからのものです。
日本全体では、大企業が導入する高価なVOC処理装置の導入が難しい中小企業が主な排出源となっていますが、法規制と自主的取り組みにより排出量は減少傾向にあります。
大気汚染防止法により、一定規模以上の施設には排出基準遵守が義務付けられ、違反時には改善命令や使用停止命令が下されます。さらに、事前の届出や定期的な排出測定も必要で、住民や環境保護の観点から厳しい管理が求められています。
シックハウス症候群対策としてもVOC規制が行われ、特にホルムアルデヒドやクロルピリホスが制限されています。
こうした規制と企業の自主的取り組みにより、国内のVOC排出量は年々削減されています。