半導体製造における排ガス処理と環境対策の歩みを解説
半導体製造は、現代のテクノロジーを支える重要な産業ですが、その工程では有害なガスや化学物質が排出されるため、環境対策が重要な課題となっています。特に、地球温暖化の一因とされるPFCガスの処理や、CO2排出を抑える技術開発が進められています。
こちらでは、半導体製造における排ガス処理技術の種類やその歴史をたどり、現在の課題と未来への展望を解説します。
目次
半導体製造における排ガス処理装置の動向
半導体は現代のテクノロジーに欠かせない存在ですが、その製造プロセスではさまざまなガスが使用されています。その中には、排出時に適切な処理が必要なガスもあり、これらを処理するために設置されるのが「排ガス処理装置」です。
◇地球温暖化対策が求める排ガス処理装置
地球温暖化が深刻な問題として認識されて久しい昨今では、環境保護への取り組みが一層重要になっています。特に、有害物質を無害化するだけでなく、CF4やSF6といったPFCガスの処理も重要な課題となっています。
これらのガスは温室効果を高める要因となり、地球温暖化を加速させるため、処理が急務とされています。そのため、製造過程で排出されるPFCガスの適切な処理が、地球温暖化対策の一環として強く求められています。
加えて、排ガス処理装置自体に対しても環境への配慮が求められています。従来の燃焼処理ではCO2が排出されるため、これを削減するために、電気を使ったプラズマ式処理などの新しい技術への移行が進んでいます。プラズマ技術は、従来の方法に比べてCO2排出を抑えることができ、より環境に優しい処理方法として注目されています。
◇国際的な市場動向
排ガス処理装置市場における国際的な動向を見てみると、日本では多くの企業が参入しており、競争が活発に行われています。2023年の日本の排ガス処理装置市場規模は241億600万円で、世界市場におけるシェアは16.2%を占めています。
この市場における特徴的な点は、大手3社が占めるシェアが44%であり、アメリカや韓国を含む7つの地域の中で最も占有率が低いことです。つまり、日本の市場は依然として多くの企業が競い合っており、寡占化が進んでいないことが特徴となっています。
一方、アメリカでは市場の寡占化が進んでおり、特に韓国のSamsungに関連する企業の参入が増加しています。2023年のアメリカの排ガス処理装置市場規模は156億7,300万円で、世界市場におけるシェアは10.5%を占めています。
アメリカの市場では、大手3社が占めるシェアが93%に達しており、DASとAtlas Copcoがほぼ独占している状況です。このような状況は、市場競争が一部の大手企業に集中していることを示しており、技術力やブランド力が重要な要素となっています。
半導体製造に用いられる排ガス処理装置
画像出典:サンレー冷熱株式会社
半導体製造において、排ガス処理装置は重要な役割を果たしており、その製造工程には欠かせない設備と言えます。半導体の製造過程では、さまざまな有害なガスや化学物質が発生するため、これらを適切に処理するための装置が必要です。
排ガス処理装置にはいくつかの種類があり、それぞれ異なる処理方法を採用しています。
ここでは、ガス処理装置の種類とその特徴について詳しく解説します。
◇排ガス処理装置
排ガス処理装置は、半導体の製造工程において使用される危険なガスを処理するための重要な設備です。半導体製造過程では、毒性、腐食性、自然発火性などの危険性を持ったガスが複合的に使用されます。
これらのガスの多くは未反応ガスや副生ガスとして排出されるため、適切な排ガス処理が不可欠です。具体的には、使用条件によって有毒ガスに変化することがあるため、これらのガスをそのまま大気中に排出しないように処理します。処理方法としては、固体処理剤を使った乾式、塩基や酸化剤を含む水溶液を使った湿式、または燃焼による方法が採用されます。
◇燃焼式排ガス処理装置
燃焼式排ガス処理装置は、排ガスをLPGなどの補助剤を使って強制的に燃焼させることで、有害成分を燃焼分解する装置です。この処理方法は、主に水やシラン、ジクロールシランといった薬液洗浄が難しいガスの除去に使用されます。燃焼によって、これらの有害ガスは高温で分解され、無害な物質に変わります。
◇湿式排ガス処理装置
湿式排ガス処理装置は、半導体製造装置などから排出される有害なガスを、薬液や水を用いて無害化する装置です。この装置は、液体を利用してガス中の有害成分を吸収または反応させるため、「湿式」と呼ばれています。
代表的な装置には、充填塔やスプレー塔といったスクラバー、また気泡塔などのスクラバーがあります。これらの装置は、ガスが液体と接触することで有害成分を効率よく取り除き、無害な状態で排出することができます。
◇吸着材式排ガス処理装置
吸着材式排ガス処理装置は、排ガス中の有害ガスを吸着剤を使って除去する装置です。主に活性炭、モレキュラシーブ、活性アルミナ、特殊薬剤、添加吸着剤などが吸着剤として使用され、これらの素材が排ガス中の有害成分を吸着することによって無害化が進みます。
吸着剤は、ガス中の有害物質を強力に捕える特性を持っており、効率的に排ガスを浄化することができます。
半導体製造と環境汚染への対策の歴史
ITの進歩と共に、半導体の製造は急速に増加し、現在ではほとんどすべての機器に欠かせない存在となっています。そんな半導体製造の歴史の中で、環境汚染対策は常に技術者にとって重要な課題でした。
◇半導体工場での環境汚染
半導体工場による環境汚染が初めて報告されたのは、シリコンバレーで知られる米国カリフォルニア州のサンタクララバレーです。ここでは、トリクロロエチレンなどの有機溶媒による地下水汚染が確認され、これが問題の発端となりました。
その後、日本でも兵庫県太子町や千葉県君津市で同様の地下水汚染が発見されました。また、同じ時期に宮崎県をはじめとする地域では、半導体材料ガスによるIC工場の火災事故も数件発生しています。
これを受けて、1986年に環境庁、厚生省、通産省、労働省の4省庁合同で「IC産業環境保全実態調査」が行われ、半導体製造工程における化学物質の使用、排出、廃棄物処理、作業環境など、IC産業の実態が明らかとなりました。
◇特殊材料ガス
特殊材料ガスは、IC製造工程の中で最も重要な役割を果たすガスで、特にチップ製造やウェーハ処理の工程で使用されます。これらのガスは、薄膜形成や不純物添加など、半導体製造に欠かせない処理を行うために使用されます。
一般的に、特殊材料ガスは反応性が非常に高く、そのため多くは有毒であることが特徴です。これらのガスを取り扱う際には、安全管理が非常に重要です。半導体産業で使用される特殊材料ガスは、大きく分けてケイ素系、ホウ素系、ヒ素系、リン系に分類されます。
これらの元素を含む水素化物やハロゲン化物が主に使用され、各々が特定の工程での反応を促進します。最近では、アルキル化物も使用されるようになっており、これらは従来のガスとは異なる特性を持ち、さらに多様な用途に対応するために導入されています。
排ガス処理の現状と課題
排ガス処理は、現在の環境汚染対策において非常に重要な役割を果たしており、将来にわたってもその重要性は変わらないと考えられています。産業活動が進む中で、排出される有害ガスや汚染物質を適切に処理することは、環境保護と持続可能な社会の実現に不可欠です。
◇有機溶剤の処理
半導体製造工場から排出される排ガスの主な対象は、有機溶剤と特殊材料ガスです。使用された有機溶剤の多くは廃溶剤として回収され、廃棄物処理業者によって処分されています。それ以外の残りの溶剤は、排気系統に移され、その約半分は活性炭による吸着処理か、水またはアルカリで洗浄処理が施されています。
排出ガス吸着処理施設の有無による有機塩素系溶剤の排出濃度の違いを見てみると、トリクロロエチレンやテトラクロロエチレンは、吸着処理施設がない場合、検出値が平均して1桁高くなっています。
この結果から、有機溶剤を外部に排出せず、完全に回収するための努力がさらに求められていることがわかります。
◇排ガス処理の重要性
環境汚染対策として、有害ガスを含む排ガスの処理が重要視されています。既にさまざまな処理方法が提案され、実用化されていますが、これらの排ガス処理装置を効果的に活用するためには、排ガスの種類、成分、濃度、流量、圧力などの条件を考慮し、前後の装置との関係も踏まえて最適な処理方法と装置を選択する必要があります。
現在、一般的に採用されている方法は、まず大量の不活性ガスで排ガスを希釈し、その後、大量の空気を混ぜて安全性を高め、スクラビング(洗浄)するという方法です。さらに、固体吸着剤を使った吸着法や、燃焼処理との併用も行われています。
半導体製造では、危険性のあるガスを適切に処理する「排ガス処理装置」が重要な役割を果たしています。近年、温室効果ガスであるPFCガスの処理やCO2排出削減が求められ、プラズマ式処理など環境負荷を抑える技術が注目されています。
排ガス処理装置には、燃焼式、湿式、吸着材式などの種類があり、それぞれ特定のガスに対応した方法を採用しています。市場動向として、日本では競争が激しい一方、アメリカでは大手企業による寡占化が進んでいます。
また、過去の地下水汚染や火災事故を契機に、環境対策が進化してきました。現在では、特殊材料ガスの安全管理や有機溶剤の完全回収が課題となっています。持続可能な社会実現には、適切な装置選択と技術革新が欠かせません。