PFCガスとは?国内や企業における排出削減への取り組み
PFCはフッ素と炭素で構成される温室効果ガスで、温暖化係数が高く大気中で分解に数千年かかるため、国際的な削減が進められています。主に半導体製造で使用され、日本では代替ガスの採用や除害装置の導入、省エネ技術の活用により排出削減に取り組んでいます。
目次
PFCとは?
PFCは、フッ素と炭素のみで構成された化合物の総称で、産業分野では温室効果ガスの一種として知られています。PFCは、地球温暖化への影響が大きいとされ、二酸化炭素(CO2)よりもはるかに強力な温室効果をもつため、国際的な削減努力が必要です。
PFCは通常、気体の形で存在し、フッ素の安定性と不活性さから、さまざまな産業分野で利用されています。PFCの主な用途は、半導体製造、ディスプレイ製造、冷媒や断熱材の発泡剤などです。
◇半導体製造とPFCガス
PFCガスは、半導体製造のさまざまな工程で欠かせない役割を果たしています。特に、エッチングやチャンバークリーニングに用いられることが多いです。
エッチング工程では、シリコン基板上にパターンを精密に形成する必要があり、PFCガスはシリコン酸化物や窒化物などの特定の材料を選択的に除去するために使用されます。
一方、チャンバークリーニングでは、製造装置の内部に堆積した残留物を除去するためにPFCガスが使用されます。残留物を除去することにより、装置の性能が維持され、製造工程の品質が保たれます。
代表的なPFCガスとしては、CF4(四フッ化炭素)、C2F6(六フッ化エタン)、C3F8(三フッ化プロパン)などがあり、それぞれのガスは特定の材料に対して異なるエッチング効果を発揮します。
◇PFCガスと環境問題
PFCガスの使用は、環境面での課題も抱えています。これらのガスは、大気中で非常に安定しており、分解されるまでに数千年もの時間を要するため、地球温暖化への影響が大きいです。
そのため、世界各国ではPFCの排出削減が求められており、製造プロセスの見直しや排出ガスの回収・分解技術の導入が進められています。
日本におけるPFCガス排出削減への取り組み
日本の半導体業界では、PFCガスの排出を削減するため、プロセスの見直しや設備の導入といった取り組みが行われており、業界全体で排出削減が推進されています。
◇プロセス条件の最適化
プロセス条件の最適化は、製造工程におけるガスの使用効率を高める取り組みです。
エッチングやチャンバークリーニングの工程では、反応時間やガスの流量、温度といった条件が製造品質に影響を与えます。条件を見直すことで、同じ作業をより少ないガス量で行うことが可能です。
例えば、エッチング工程ではガスの流量を最小限に調整し、無駄なガス消費を抑える手法がとられています。条件の見直しは、新たな設備投資を伴わずに削減効果が見込めるため、低コストで導入できる改善策です。
◇ガス代替化
PFCガスを、より環境負荷の少ない代替ガスに切り替える取り組みも進められています。
PFCガスは地球温暖化係数(GWP)が非常に高いため、GWPが低い物質に変更することで、排出量を大幅に削減することが可能です。
例えば、六フッ化硫黄(SF6)を四フッ化炭素(CF4)や六フッ化エタン(C2F6)に置き換える事例があります。
ただし、代替ガスは化学的な性質が異なるため、製造工程の見直しが必要になるケースもあるため注意すべきです。
◇除害装置設置
除害装置の設置は、製造工程で発生する排気ガスを分解・無害化する取り組みです。
PFCガスは化学的に安定しているため、自然環境中では分解されにくいですが、除害装置を使用すれば、分解して無害な物質に変換することが可能です。
代表的な装置には、燃焼分解装置やプラズマ分解装置があり、排ガスを高温で分解したり、化学反応を利用して無害化したりする方法がとられています。
除害装置の設置にはコストがかかりますが、削減効果が高く、即効性のある対策として多くの半導体メーカーが導入しています。
◇日本の半導体業界の実情
日本の半導体業界では、プロセス条件の最適化、ガス代替化、除害装置の設置といった3つの施策を同時に進めた結果、2010年には排出量を目標の10%削減を大きく上回る50.6%の削減を達成しました。
これにより、国際的な温室効果ガス排出削減の取り組みに貢献しています。
企業のゼロカーボンに向けた取り組み
画像出典:フォトAC
気候変動対策の一環として、半導体製造企業は「ゼロカーボン」の実現に向けた取り組みを進めています。エネルギー消費が多い半導体製造では、CO2排出の削減が求められ、業界各社は新技術の導入や製造工程の最適化を図っています。
◇東京エレクトロングループの取り組み
東京エレクトロングループは、製造装置の使用時に生じるCO2排出量の削減を中心的な課題と位置づけています。
特に、半導体ウェーハが200mmから300mmへと大型化することで、製造設備の消費電力が倍増するため、装置の省エネ化が重要なテーマです。さらなる削減のためには工場全体でのエネルギー効率化も検討されています。
また東京エレクトロングループは、ハード、ソフト、ノウハウといったあらゆる観点からの省エネ施策を展開し、工場全体の最適化に取り組んでいます。
具体的には、製造設備、デバイス、工場のファシリティの連携を強化することで、開発から管理までの各部門が一体となって、環境負荷の低減を目指しています。
出典元:東京エレクトロン
◇サムスン電子の取り組み
サムスン電子は、温室効果ガス削減の取り組みが評価され、カーボントラストから「トリプルスタンダード」の認証を業界で初めて取得しました。
トリプルスタンダードは、炭素排出、水管理、廃棄物管理の3分野で高い基準を満たした企業に与えられる認証です。
サムスン電子は、排気ガスを分解・無害化する除害装置の設置を進め、PFCガスの排出を削減しています。
また、製造工場では再生可能エネルギーを積極的に導入し、太陽光発電や風力発電を活用した電力供給を行っています。
工場でのエネルギー消費量の一部を再生可能エネルギーに置き換えることで、CO2排出量の削減が可能です。
加えて、水資源の管理にも取り組んでおり、工場内での水の再利用を促進することで、環境負荷の低減を図っています。
出典元:サムスン
PFCガスを高効率処理する排ガス処理装置
半導体製造で使用されるPFCガスは、温室効果が非常に高く、地球温暖化への影響が問題視されています。PFCガス排出削減に向けた高効率の排ガス処理装置が各社で導入されています。
◇レゾナック「PFC除害装置」
画像出典:レゾナック
レゾナックのPFC除害装置は、半導体製造工程で排出されるPFCガスを高い効率で分解・除去するために設計されています。レゾナックのPFC除外装置は、燃焼方式を採用しており、高温環境でPFCガスを分解する仕組みを持っています。
分解後の生成物は無害化され、大気中への排出が抑制されます。
レゾナックのPFC除外装置は、CF4(四フッ化炭素)やC2F6(六フッ化エタン)といった主要なPFCガスをはじめ、各種温室効果ガスの分解にも対応が可能です。
レゾナックのPFC除外装置の大きな特徴は、分解効率の高さです。
99%以上の分解率を実現しており、半導体製造における温室効果ガスの排出削減に大きく貢献しています。さらに、安定した運転性能と長寿命設計により、装置のメンテナンス頻度が少なく、稼働率を向上させることが可能です。
レゾナックは、環境に配慮した製造プロセスを支援するため、さまざまなタイプのPFC除害装置を提供しています。
◇荏原製作所「G5型排ガス処理装置」
画像出典:荏原製作所
荏原製作所のG5型排ガス処理装置は、PFCガスや有害な化学物質を高効率で処理するために開発された製品です。
荏原製作所のG5型排ガス処理装置は、独自の「燃焼分解技術」を採用しており、PFCガスを高温環境で分解し、無害な物質に変換する仕組みです。
燃焼分解方式は、他の除害方式と比べて分解効率が高く、安定した処理が可能です。G5型の特徴は、省エネルギー設計が施されている点です。
従来の燃焼式装置と比較して燃料消費量を大幅に削減しており、排出ガスの分解性能を維持しながら運用コストを低減しています。
また、同時に処理可能なガスの種類が多く、PFCガスだけでなく、他の有害物質の除害にも対応しています。
荏原製作所のG5型排ガス処理装置は高い分解性能を維持しつつ、環境負荷の低減にも貢献する仕組みが特徴です。
PFCはフッ素と炭素から構成される化合物で、温室効果ガスの一種として知られています。その温暖化係数(GWP)は非常に高く、大気中での分解に数千年かかるため、国際的な削減努力が進められています。
PFCガスは主に半導体製造で利用され、エッチングやチャンバークリーニングなどの工程で不可欠です。日本では、プロセス条件の最適化、環境負荷の少ない代替ガスへの切り替え、除害装置の設置が進行中です。企業ごとに省エネ技術や再生可能エネルギーの導入が進められ、排出削減に貢献しています。